聞き屋のたぬ吉

相席をした彼の名は悲しみ

ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』を見た当事者の感想

今週火曜日からフジテレビ系でスタートしたドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』、略してケンカツ。


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タイトルには日本国憲法の第二十五条の条文がそのまま引用されている。

 

〔第二十五条〕

すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 

上記から推測できる通り、このドラマは僕が今年の5月に利用を開始した生活保護から材を取った内容となっている。

しかしながら、放送当日は新宿で友人と呑気に水餃子をつついていて、うっかり見逃してしまっていた。

当事者としてどうしても見ておきたくて、動画を探したところ、幸いGYAOで無料試聴することが出来た。せっかくなので初回の感想をまとめてみようと思う。

※下記リンクより飛べるので、未視聴の方は是非。

 

gyao.yahoo.co.jp

 

*   *   *

 

・あらすじ

主人公の義経えみるは大の映画好きで、学生時代は映画監督を志し、サークル活動に没頭する日々を送っていた。しかしひょんなことから挫折を味わうと、その反動から「安定」を求めて就活に励んだ結果、晴れて公務員として採用が決定。そして東京都東区役所の生活課へ配属されると、110世帯もの生活保護利用者を担当するケースワーカーとなった。

 

担当部署の棚には、世帯ごとの内情を詳細に記録した大量のファイルが保管されていた。その一つ一つをやおら開いてみると、そこには一般的な家庭で「健全に」育った者にはにわかに信じ難い、ショッキングな内容が数多く見受けられるのだった。

 

覚醒剤取締法違反で逮捕、夫の暴力から逃げるように別居

・長年虐待を受けていたことによる自傷癖、心的外傷後ストレス障害

・電車内で下半身を露出し逮捕、保護停止

 

あまりの悲惨さに絶句していたのも束の間、彼女の真面目で優しい性格が仇となり、闇を抱えた利用者たちに次々とキリキリ舞いさせられてしまう。ついには「この仕事、向いてないんじゃないか……」と、一人思い悩むようになってしまうのだった。

 

・ケース1 利用者の自殺

業務開始早々、えみるの担当する平川という男がビルから飛び降り自殺をしてしまい、新人ケースワーカーとしてのっけから手痛い洗礼を浴びせられる。

彼が保護を申請するに至った経緯を調べてみると、帳簿にはこんな内容が記載されていた。

 

〔ケース記録〕

平成24年6月に主の妻が癌を患う。

平成27年8月末まで就労していたが、妻を在宅療養するため勤めていた会社を退職し、介護に専念するも平成28年6月に他界。

貯金も底をつき、平成28年9月保護申請に至る。

 

上司の半田とともに平川の“終の棲家”となってしまったアパートを訪れると、まず目に飛び込んできたのは、びっしりとふせんが貼られた無料の求人雑誌だった。

奥にある6畳の和室は小綺麗に整理されていて、机の上には奥さんとの仲睦まじいツーショット写真が飾られていた。そこで初めて平川の顔を見たえみりだったが、担当部署で自殺の一報を聞いた際、同僚がふと漏らした心ない一言が脳内でフラッシュバックする。

「自分が抱えてる1ケース減って、よかったじゃん」

 

(それを言ってしまうと、何か大切なものを失う気がする……。)

 

義憤に駆られるように、彼女は半田に向かってこう問いかけた。

「平川さん、努力してましたよね?生きようとしてましたよね?110ケースあろうが、国民のお金だろうが、生きようとしてましたよね!?」

ケースワーカーは命を守る仕事ですが、残念ながら守りきれないときもあります。」

「でも、私……」 

 

やりきれない現状に、まったく二の句が継げないといった表情で立ち尽くしているのだった。

 

・ケース2 債務整理

阿久沢という利用者と面談をした際、「1日1食しか摂っていない」と話していたことを不審に思い、えみるが一人で男性宅を訪問するシーン。

絵に描いたようなボロアパートで倹しく暮らす彼だったが、催告書なるものが冷蔵庫に貼ってあるのを目ざとく見つけられてしまい、ついに消費者金融から多額の借入れをしていることを告白する。

「借金があると、生活保護を貰えないと思って」

借金があっても問題ないことを説明すると、まずは法テラスという専門業者で債務整理をするよう促した。

 

しかしいくら待っても行動を起こさない阿久沢にしびれを切らし、日時を指定して再度役所を訪れるよう依頼するが、やはり約束の時間になっても現れる様子がない。携帯に電話をしてみると、役所の前まで来たが引き返してしまったとのことで、仕方なく彼の待つ公園へと向かった。

 

「私たちは阿久沢さんを助けたいんです。だから法テラスを勧めるんです。逃げないでください、ちゃんと訪ねてきてください。」

えみるの純粋な思いとは裏腹に、彼はバツの悪そうな顔でアイロニカルにこう洩らすのだった。

「娘でもおかしくない年齢のあなたに、家見られて冷蔵庫の中見られて借金のことも言われて、もう情けなくて恥ずかしくて。やっぱり私のこと見下してますよね、情けないと思ってますよね。」

彼女の年齢によるアウトサイダー性が、余計に彼のプライドを傷付けてしまっていたことを知り、それ以上無理強いすることが出来なくなってしまった。

 

(阿久沢さんの物語、ハッピーエンドに導くために、私はどうすればいいのだろう。)

 

そして再度「あなたのために本気で骨を折る覚悟だ」と体当たりするえみるに根負けして、阿久沢はついに行動を起こす決心をする。

フタを開けてみれば、その借金はとっくに完済されていて、150万円もの過払い金を請求できることが判明。これで彼の生活保護はめでたく廃止となったのだった。

 

・当事者としての感想

第1話のケース毎の印象として、生活保護という重めのテーマを扱っている割には、主人公のキャラクター設定一つ取ってもいい意味で取っつきやすく、比較的ライトにまとまっていたように思う。

特に当事者の呼称を一貫して「受給者」ではなく「利用者」としていたところには好感が持てたし、その利用者を過剰に擁護するでもなく、一般的なマイナスイメージについてもそれなりに触れられていて、公平性にしっかりと配慮している様子が感じられた。

 

しかし一方で気になったのが、保護費を借金の返済に回していたことがバレてしまったシーンである。実際に僕自身のケースと照らし合わせてみると、例えば八王子市では申請が通った場合、制度利用に関する諸々の注意事項が書かれた「生活保護のしおり」というものが配布され、事前に細かな説明を受けることになる。


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 (実際に役所から配布された「生活保護のしおり」)

 

保護費の取扱いについていくつか禁止事項があり、その中に「借金やその返済」がNGであることがしっかりと明記されているのである。


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ドラマの中では、途中ケースワーカーが阿久沢の借金返済についてやや諦めモードだったけれど、あのくだりは端的に言ってあり得ない。実際に保護費を借金返済に充てることは制度の運用上許されないので、最悪の場合、支給停止になってしまうくらいまずいことなのだ。

僕も相談時には90万円ほど借金があったため、担当のケースワーカーから法テラスでの債務整理を勧められた。ここなら一定の要件を満たしていると借金の法律相談などが無料なので、気軽に利用することが可能なのだ。


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(法テラスのパンフレットと、ケースワーカーさんが書いてくれたメモ用紙)

 

ドラマほど懇切丁寧ではないけれど、初回に僕を担当してくれた女性も非常に感じのいい方で、無知な自分にいろいろと分かりやすくアドバイスをしてくれた。実際にどこまで親身に寄り添ってくれるかは、正直担当になるケースワーカーによって大きく異なると思う。

現にこの直後、僕の担当の女性が産休のため、別の若い男性に引き継がれることになったのだけど、これが驚くほど相性が悪くて、残念ながら彼のことは今現在まったく信用出来ていない。顔を合わせるのが憂鬱なくらいウマが合わないのである。


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*   *

 

ドラマの全体的な感想としては、良く言えばバランスが取れていて無難だし、悪く言えばいかにも脚本という感じで、展開がきれいにまとまり過ぎている感はどうしても否めなかった。

きっと実際に生活保護を利用する人は(僕を含めて)もっとドロドロした複雑な事情を抱えているだろうし、えみるのような実直で世話焼きなケースワーカーや、半田のような人間的に出来た上司などは、現実にはそうそう見当たるものではないだろう。

 

次週は早くも「不正受給」について切り込むようなので、今後も引き続き目が離せない展開となりそうだ。