聞き屋のたぬ吉

相席をした彼の名は悲しみ

午前三時の水銀灯

 地元の駅に着いたのは、すでに日付けが変わった頃だった。

 お腹が空いていた。何か買って帰ろうと駅前のコンビニに寄ってはみたものの、食べたいと思うものが皆目見当たらない。棚に並べられた弁当類はどれもいまいちだし、パンも惣菜もおにぎりも、何もかもそそられない。仕事で精神的に疲れているせいだろうか。

 そんなときは何も考えないほうがいい。

 僕は無心になって、適当なカップラーメンとサラダと缶ビールをカゴに投げ入れた。そう言えば近頃コンビニめしばかりで、しばらくまともな食事を取っていなかった。基本的に食べられれば何でもいい、そんな考えの自分は食に興味がなさすぎるのだろう。会社でも菓子パンばかり食べている。

 「お前、そろそろ死ぬんじゃね?(笑)」

 弁当持参の同僚は呆れ顔で言う。退廃的な食生活をしている自覚はあるものの、今さら自炊なんてする気にはなれない。最近髪がよく抜ける。不健康もいよいよ極まってきたなと、自嘲気味に笑いが込み上げた。

 

 店を出てから携帯を取り出すと、数分前に知宏からラインが入っていたのに気がついた。

 (遅くにごめん、今って電話できる?)

 自宅までの道のりは徒歩で15分ほど、通話しながら帰るにはちょうどよかった。僕はすぐにマイク付きイヤホンを耳にあてると、電話帳から彼の番号を呼び出した。

 「もしもし、お疲れ。久しぶりだね。」

 『久しぶり。あのさ、急なんだけど、これから会えたりしないかな?』

 「えっ、今から!?」

 予想もしていなかった急な呼び出しに、声がうわずる。帰って横になりたい気持ちと、跳び跳ねたいくらい嬉しい気持ちで心が揺れ動いた。

 「なにかあったの?」

 ……応答がない。

 今しがた買ったビールのプルタブを引こうとした瞬間、イヤホンから小さく鼻をすする音が聞こえた。立ち止まって耳を澄ましたら、知宏が声を殺して泣いているのが分かった。

 察した。

 こういうときは、むやみに事情を聞いちゃいけない。彼が今必要としているのはたぶん言葉じゃなく、“人の気配”なんだ。

 「家にいるの?30分で行くから、待ってて。」

 会わないという選択肢はなかった。

 

 息せき切って帰宅すると、すぐにスウェットとTシャツに着替えて、財布と携帯と鍵を持って車に乗り込んだ。

 僕に会いたくて連絡をくれたのか、誰でもいいから側にいてほしいのか、そのあたりのことは分からない。ただ、涙の理由は何となく想像がついた。恐らく半年前から付き合っている恋人とのことだろう。順調にいっているとばかり思っていたけど、何かうまくいかないことでもあったのだろうか。

 僕が馳せ参じることで不安が消えてくれるなら、ちょっと寝不足になるくらいどうということはない。はやる気持ちを抑えつつ、僕は彼の家へと続くトンネルを猛スピードで走り抜けた。