聞き屋のたぬ吉

矛盾の総和が人生だ

小説のような何か

【小説】タピオカ禁止法(最終回)

タピオカワールドが爆破される、死傷者50人以上か 東京タピオカワールドはたしか先週末、渋谷区に期間限定でオープンした謎のテーマパークだった。チケットは予約開始と同時に即完売で、オープン初日にはつい最近タピオカ大使に任命されたという人気タレント…

【小説】タピオカ禁止法(10)

またか、という気持ちになったのと同時に、ひょっとするとあの事件の犯人はSなのではないかという考えが頭をよぎった。しかし証拠はどこにもなかった。 それに、こんなに簡単に手に入る(信用できるかどうかも怪しい)情報の断片だけで容疑者が割り出せるの…

【小説】タピオカ禁止法(9)

三時になりました、ニュースをお伝えします。今日昼過ぎ、歩行者天国で賑わう東京・秋葉原の駅近くの路上で、男が通行人をトラックで撥ねたあと、次々にサバイバルナイフで切りつけました。東京消防庁によりますと十六人がケガをし、このうち五人が心肺停止…

【小説】タピオカ禁止法(8)

「T・A」の検索結果のタイムラインには、他にもこれと似たような動画が複数上がっていて、翌日にはネットニュースにも取り上げられるほどだった。 関連記事では聞いたこともないような名前のコラムニストが、「これは言わばルサンチマン。今までさんざんや…

【小説】タピオカ禁止法(7)

結局あの日、俺はタピオカを飲まずに店をあとにした。なにかの本質を垣間見たような気がして、タピオカへの興味が一気に薄れてしまったのだ。 あれから二週間、今はもうタピオカを飲んでみたいという気持ちはまったくない。だが、やはりほんのわずか関心は残…

【小説】タピオカ禁止法(6)

俺は何かを言おうとして、一歩足を踏み出そうとした。しかし俺より先に二人のもとに向かう白く太い足があった。さっきまでDKに嗤われていた、あのオタクの足だった。 「私もレジでここに並べって言われました。レシートなんて持ってませんけど」 怒り狂う…

【小説】タピオカ禁止法(5)

列はさらに前進した。中二階の踊り場から後方を見上げると、さっきよりも人が増えているのが分かる。二階に達した列はそのまま三階へと折れ曲がり、もうどこが最後尾なのか、ここから確認することはできない。 前に立つ五十絡みの夫婦も同じように首を動かし…

【小説】タピオカ禁止法(4)

あらためて前方の列に視線をやると、客もいろいろといるのが見てとれる。 五十絡みの中年夫婦、私服のJK二人組、身長差がすごい二十代のカップル、鞄にアニメのキャラクターを大量にぶら下げたオタクっぽいオバサン、専門学校生風の男子三人組、子ども連れ…

【小説】タピオカ禁止法(3)

翌日、仕事を終えた俺が向かった先は、H駅前に先々月オープンしたばかりの「Kong cha(コンチャ)」というタピオカ屋だった。 昼休みにスマホで〈H駅 タピオカ〉と検索をかけたところ、サジェストでこの店の名前がトップに表示されていた。なんでもここは今…

【小説】タピオカ禁止法(2)

「はー、おっかし。ないない、ありえない、ありえなりかずきだわ」 彼女はひとたびスイッチが入ってしまうと、独特の声と表情になる。たとえばそれはタレントのYOUだとかELTの持田香織あたりに似た、周囲を巻き込むような破壊力のある笑い方だった。 油断し…

【小説】タピオカ禁止法

「先ほどお電話した滝岡といいますが」 「滝岡さん、滝岡さん、えーっと、下のお名前もよろしいですか?」 「滝岡浩志です」 「はい、はい、えーっと、午前中にお電話されて?」 「ええ、そうです、商品の取り置きをお願いしてたんですが」 「そうですねえ、…

【SF小説】誰もいない部屋で

部屋の天井の四隅を見ると金縛りにあう、という話を思い出し、さっきから白い天井を眺めているのだが、その四隅がいっこうに見あたらない。の、ではなく、正確にはどれが四隅にあたるのかが分からなかった。 別段この部屋がデザイナーズマンションの類いで、…

【小説】ジャンキー・デビルローン

月に一度行くか行かないかという小さな中華料理屋がある。もともとは旦那が職場の人に教えてもらったというお店で、四十代くらいの夫婦が二人だけで経営していた。自宅から歩ける距離にないので、食べに行くときは必ず車を出してもらっている。 先週末、私た…

【小説】マスクの男

目の前の男と手をつないでいた。名前は愚か、年齢も職業も知らない。 男はマスクをかけていて、その表情のすべてを窺い知ることはできない。ただ、雰囲気が優しかった。 仕立てのいいスーツを纏っていた。察するに四十代半ばといったところか。人好きのする…

【小説】石井さん

私が小学五年生のころ、クラスに石井さんという女の子がいた。 石井さんはその年の春にやってきた転校生だった。見た目は利発そうなのに性格はひかえめで、なぜだかいつも体育の授業を見学していた。 見学の理由を担任から周知されなかったこともあって、最…

【小説】午前三時の水銀灯

地元の駅に着いたのは、すでに日付けが変わった頃だった。 お腹が空いていた。何か買って帰ろうと駅前のコンビニに寄ってはみたものの、食べたいと思うものが皆目見当たらない。棚に並べられた弁当類はどれもいまいちだし、パンも惣菜もおにぎりも、何もかも…